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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)7706号 判決 1981年12月18日

昭和五五年(ワ)第七七〇六号事件原告、同年(ワ)第九六一二号事件被参加人、

同年(ワ)第一三四四二号事件被告(以下「原告」という。)

光洋産業株式会社

右代表者

和田禎成

右訴訟代理人

青柳健三

昭和五五年(ワ)第七七〇六号事件被告、

同年(ワ)第九六一二号事件被参加人(以下「被告」という。)

株式会社長崎屋

右代表者

岩田孝八

右訴訟代理人

中川浩治

昭和五五年(ワ)第七七〇六号事件被告、

同年(ワ)第九六一二号事件被参加人(以下「被告」という。)

株式会社スズヤ

右代表者

本郷洋

右訴訟代理人

加島安太郎

昭和五五年(ワ)第九六一二号事件当事者参加人、

同年(ワ)第一三四四二号事件原告(以下「参加人」という。)

破産者株式会社尾崎商会

破産管財人

伊礼勇吉

主文

一  被告長崎屋は原告に対し四八万七九一六円とこれにつき昭和五五年八月一日以降完済に至るまで年六分の割合による金銭を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  原告が当庁昭和五五年(ワ)第七七〇六号譲受債権等請求事件において被告スズヤに対して請求している債権五八万七一七一円が破産者株式会社尾崎商会の破産財団に属することを確認する。

四  被告スズヤは参加人に対し五八万七一七一円を支払え。

五  参加人のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用はこれを八分し、その四を参加人、その二を原告、その一を被告長崎屋、その一を被告スズヤの各負担とする。

七  この判決は第一項、第四項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  昭和五五年(ワ)第七七〇六号事件

原告は主文第一項と同旨及び「被告スズヤは原告に対し六一万一五一五円とこれにつき昭和五五年八月一日以降完済に至るまで年六分の割合による金銭を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被告らは、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求めた。

二  昭和五五年(ワ)第九六一二号事件

参加人は「(一)原告が被告長崎屋に対し請求している四八万七九一六円、同被告スズヤに対し請求している債権(昭和五五年(ワ)第七七〇六号事件)中五八万七一七一円がいずれも参加人に属することを確認する。(二)参加人に対し被告長崎屋は四八万七九一六円、被告スズヤは五八万七一七一円を支払え。(三)訴訟費用は原告及び被告らの負担とする。」との判決並びに(二)項につき仮執行の宣言を求めた。

原告及び被告らは、参加人の請求を棄却する、訴訟費用は参加人の負担とする、との判決を求めた。

三  昭和五五年(ワ)第一三四四二号事件

参加人は「別紙供託目録記載の供託金還付請求権が参加人に属することを確認する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告は、参加人の請求を棄却する、訴訟費用は参加人の負担とする、との判決を求めた。

第二  当事者の主張

一  昭和五五年(ワ)第七七〇六号事件

1  原告の請求原因

(一) 原告は、昭和五五年四月二四日訴外有限会社創美(以下「創美」という。)との間に原告が従前十数回創美に貸付けた残額一三五〇万円につき、弁済期日を同月二五日、利息年一割五分、損害金年三割と定めて準消費貸借契約を締結した。

(二) 破産者株式会社尾崎商会(以下「尾崎商会」という。)は、創美との間にアクセサリーを継続的に取引し、相互に融通手形を発行しあつていた関係上、右同日創美の原告に対する前記債務について連帯保証をするとともに、原告に対し同債務不履行の場合には、尾崎商会の被告らに対するアクセサリー売掛債権を代物弁済として譲渡する旨の停止条件付代物弁済契約をした。尾崎商会はその際債務者である被告らに対してなすべき債権譲渡の通知を原告が代理してなすことに同意し、右譲渡通知に使用すべき内容証明郵便用紙に尾崎商会代表者印を押捺してこれを原告に交付した。

(三) 創美及び尾崎商会は弁済期日である昭和五五年四月二五日中に前記債務を履行することができなくなつたので、原告は同日尾崎商会に代理して同会社の被告長崎屋に対する売掛債権四八万七九一六円を原告に債権譲渡する旨の内容証明郵便を被告長崎屋宛に差出し、同郵便は翌二六日送達された。

(四) 原告、創美及び尾崎商会は、昭和五五年五月九日前記第1項の債務につき公正証書(東京法務局所属公証人太田輝義作成昭和五五年第四五四号)を作成したが、原告は右公正証書を債務名義として尾崎商会の被告スズヤに対する預け金返還請求権六一万一五一五円につき債権差押及び転付命令(当庁昭和五五年(ル)第三一一六号)を得、これは昭和五五年六月二四日第三債務者である右被告に送達された。

(五) よつて、原告は被告長崎屋に対し譲受債権四八万七九一六円、被告スズヤに対し転付金六一万一五一五円と右各金銭につき本訴状送達の日の翌日である昭和五五年八月一日以降完済に至るまで商事法定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告長崎屋の答弁

請求原因事実中、原告主張のころ同主張の債権譲渡通知が被告に送達されたことは認めるが、債権額は記載されず、ただ売掛代金全額と表示されていたにすぎず、その余の事実は不知。

被告長崎屋は右通知当時尾崎商会に対し四八万七九一六円の買掛債務を負担していたが、尾崎商会より昭和五五年五月六日付内容証明郵便をもつて原告に対する右債権譲渡の無効を通知され、更に、同年八月二五日同商会破産管財人たる参加人から右債権支払の請求をされたので、いずれが正当な債権者であるかを知ることができず、原告の請求には応じられない。

3  被告スズヤの答弁

請求原因事実中、原告主張の債権差押及び転付命令正本が同主張の日時送達されたことは認めるが、その余は不知。

被告スズヤが尾崎商会とのアクセサリーの取引により買掛債務の現存することは認めるが、原告主張の預り金債務は存在しない。従つて、右転付命令の目的債権と同一性がないので、本訴請求には応じ難い。

二  昭和五五年(ワ)第九六一二号事件

1  参加人の請求原因

(一) 尾崎商会は、昭和五五年四月二五日支払停止をなし、同年六月一六日自己破産を申立て、同年八月七日破産宣告となり、参加人が破産管財人に選任された。

(二) 尾崎商会は、その支払停止の昭和五五年四月二五日の時点でアクセサリー類の売掛金債権として

被告長崎屋に対し四八万七九一六円

被告スズヤに対し五八万七一七一円の債権を有していた。

(三) 原告は、尾崎商会より被告長崎屋に対する右債権の譲渡を受け、債権譲渡通知の代理権を与えられたとして、昭和五五年四月二六日送達の書面で右被告に対し債権譲渡の通知をした。

しかしながら、尾崎商会が原告に対し同主張の債権譲渡をした事実もなく、同通知の代理権を与えた事実もない。

(四) また、原告は被告スズヤに対し同主張の公正証書を債務名義として債権差押及び転付命令を得、該命令正本は昭和五五年六月二四日同被告に送達された。

(五) 否認権行使

(1) 仮に原告主張の債権譲渡の事実があつたとしても、尾崎商会が原告との間にその主張のような連帯保証契約及び停止条件付代物弁済契約による債権譲渡とその譲渡通知の代理権付与の行為をした昭和五五年四月二四日は、尾崎商会の支払停止の前日であつて、原告はかかる行為が尾崎商会の債権者を害することを知り、かつ、害する意思のもとになされたものであり(破産法七二条一号)、また、支払停止の前日に、なんらの特約もなく、義務に属さないことを行わしめたものである(同条四号)から、参加人は否認する。

(2) 原告による尾崎商会の被告スズヤに対する債権に関する差押及び転付命令の債務名義である公正証書作成のための委任状は、同年四月二四日右と同一機会に作成されたものであつて、前記同様の否認の要件を充しており(同条一、二、四号)、かつ、右債権差押、同転付命令は同年六月一六日破産申立がなされた後に同年八月七日破産宣告がなされるまでの間隙をぬつて同年六月二四日に申請されたものであつて、破産法七二条一、二、四号、七五条により否認の対象とすべきである。

2  原告の答弁

(一) 請求原因(一)ないし(四)項は、尾崎商会が原告に対し原告主張の債権譲渡をした事実、同債権譲渡の通知に関し代理権を与えた事実がいずれも無い旨の主張は否認し、その余の事実は認める。

(二) 同(五)項の否認権の行使につきその要件の存在は否認する。尾崎商会は、創美と長期間継続的取引関係にあり、相互に融通手形を発行していた立場上、創美の倒産を回避するため同会社の原告に対する債務につき連帯保証をしたうえ、本件債権譲渡を目的とした停止条件付代物弁済契約をしたものであり、かつ、その執行保全のため公正証書を作成したものであつて、破産法七二条一、四号の各要件には当らない。

(三) 原告は、尾崎商会と前記債権譲渡を目的とする代物弁済契約をした昭和五五年四月二四日の時点で、その後生じた尾崎商会の支払停止、破産申立の事実を知る由もなく、又原告において同商会の債権者を害すべき事実など知らなかつたものである。

(四) 原告は尾崎商会との前記連帯保証契約時の合意に基づきこれを公正証書としたものであり、他方、被告スズヤに対する執行は、いずれも執行機関によるものであつて、原告ないし破産者の行為ではないから、参加人主張の否認の対象とならない。

三  昭和五五年(ワ)第一三四四二号事件

1  参加人の請求原因

(一) 破産者尾崎商会は訴外株式会社西友ストアー長野に対し売掛債権一四九万八三九五円を有していたところ、原告は尾崎商会から右債権につき譲渡を受け、かつ、その譲渡通知をする代理権を付与されたと称して、昭和五五年四月二五日西友ストアー長野に対し右債権譲渡通知を発し、翌二六日送達された。

(二) 西友ストアー長野では、真の債権者を確知することができないとして別紙供託目録記載のとおり弁済供託をした。

(三) 尾崎商会は、原告に対し全く債権譲渡の事実が存しないから、右債権譲渡通知も無効である。

(四) 仮にそうでないとしても、前記債権譲渡行為は、破産法七二条一、二号に該当するので、参加人はこれを否認する。

2  原告の答弁

請求原因(一)、(二)項を認め、(三)、(四)項は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一本件では、昭和五五年(ワ)第七七〇六号、同第九六一二号、同第一三四四二号とも、尾崎商会の被告長崎屋及び訴外西友ストアー長野に対する売掛債権が原告に対し有効に譲渡されたかどうかの点が問題とされているから、先ずこの点につき判断する。

1  尾崎商会は、婦人用アクセサリー類の販売業者であるが、昭和五五年四月二五日支払停止をし、同年六月一六日同会社より破産を申立て、同年八月七日破産宣告を受けたこと、当時、尾崎商会が被告長崎屋に対し四八万七九一六円、訴外西友ストアー長野に対し一四九万八三九五円の各売掛債権を有していたこと、原告が尾崎商会から右各債権譲渡を受け、同譲渡通知の代理権を与えられたと主張し、昭和五五年四月二六日到達の書面により被告長崎屋並びに西友ストアー長野に対しその旨の通知をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

2  <証拠>を総合すると、次の事実が認められ<る。>

(一)  尾崎商会と創美とは昭和四九年三月ころからアクセサリー類の取引を継続し、相互に融通手形を発行し、金融業者等から割引を受けて金融を得ていたところ、創美の原告に対する債務は昭和五五年四月二四日の時点で一三五〇万円に及び、そのうち尾崎商会の融通手形による決済残額が七五〇万余円存在した。

(二)  創美が原告のもとで割引を受けた尾崎商会振出の融通手形のうち、同年四月二五日満期日となる額面七五万円と一〇〇万円の二通が存したが、同月二〇日ごろ尾崎商会より創美に対し右一〇〇万円の手形は本来同年六月一五日の支払期日として振出すべきものを誤つて事前に振出したため決済資金の目途が立たないから、創美の方で決済して貰いたい旨の連絡がなされた。

そこで、創美はその資金一〇〇万円の融資を原告に申込んだところ、原告代表者和田は実情を確認する必要があるとして、同月二四日創美の代表者大倉を伴い尾崎商会を訪ねた。その時刻は午後一〇時ごろであり、同商会代表者尾崎七郎一人がいた。

(三)  右三者が協議し、創美の原告に対する現存債務が一三五〇万円であり、うち、尾崎商会発行の手形がほぼ七五〇万円あることが明らかにされ、その場で尾崎は、創美と尾崎商会とは前記のように相互に融通手形を発行して他より金融を得ている関係上、創美が一方的に倒産してもその連鎖反応で尾崎商会の倒産も必至であるから、創美の右債務につき尾崎商会が連帯保証をすることを認め、右債務の弁済期日を昭和五五年四月二五日とし、尾崎商会は原告に対し同債務の不履行の場合には、尾崎商会の被告長崎屋、訴外西友ストアー長野などの売掛債権を代物弁済として原告に譲渡する旨の停止条件付代物弁済契約をなし、かつ、その債権譲渡通知の代理権を与え、右債権譲渡通知に使用すべき内容証明郵便用紙の数通に尾崎商会の代表者印を押捺して和田に交付したほか、前記債務の公正証書作成用その他のため委任事項を白地として「尾崎七郎」と個人の署名押印及び尾崎商会の社名と代表取締役尾崎七郎の記名印と代表者印を押捺した委任状を複数交付した。

その際、尾崎は、和田や大倉に対し、甲府の知人からの融資と第一勧銀の手形割引により、翌二五日の手形決済は大丈夫であると確言しながら約一〇〇〇万円に上る受取手形を見せた。そして、和田と大倉が尾崎商会を辞去したのが同月二五日午前一時ごろであつたが、その間右両名が尾崎に対し強制ないし脅迫的言動を弄した事実はなく、ただ、和田らが前記書類の一部に記名印の押捺を手助けした事実があるにすぎない。

(四)  尾崎商会は、同年四月二五日手形の不渡りを出し、同日支払停止をした。原告は、同日、直ちに尾崎商会との上記停止条件付代物弁済の約旨に従い、尾崎商会の被告長崎屋及び訴外西友ストアー長野に対する各売掛債権の債権譲渡を受け、予め尾崎商会代表者印を受領していた前記内容証明郵便用紙を使用して被告長崎屋ないし西友ストアー長野に対し尾崎商会を代理して債権譲渡通知を送付した。そして、右通知は被告長崎屋、訴外西友ストアー長野のいずれにも同月二六日送達された。

3  以上の事実関係に照らすと、尾崎商会の被告長崎屋に対する本件売掛債権四八万七九一六円及び訴外西友ストアー長野に対する売掛債権一四九万八三九五円は、いずれも原告に対し適法に債権譲渡をされ、昭和五五年四月二六日その債務者である長崎屋ないし西友ストアー長野に対し譲渡人尾崎商会(ただし、その代理人である原告代行)からその旨の各通知がなされたのであつて、原告はこれを右各債務者及び尾崎商会の破産管財人である参加人に対抗することができるものといわなければならない。

二参加人は、前記債権譲渡は破産法七二条一、四号により否認すると主張するけれども、上記認定のとおり、原告代表者和田と創美代表者大倉とが昭和五五年四月二四日尾崎商会を訪れ、翌二五日支払期日の手形について協議した際、尾崎商会の代表者尾崎七郎は、受取手形約一〇〇〇万円くらいを右両名に示しながら、甲府の知人や第一勧銀からの融資を確実に受けられ、翌二五日の手形決済は大丈夫であると確言しており、この事実に原告代表者和田禎成の尋問結果を総合すると、原告代表者和田は尾崎の右言辞を信じ、よもや二五日に尾崎商会が支払停止に追い込まれ、更に破産宣告に至るものとは考えず、前認定の本件債権譲渡を目的として尾崎商会の原告に対する債務不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結したことが認められ、他にこれを覆すに足りる確証はない。

従つて、本件債権譲渡を目的とする右停止条件付代物弁済契約がなされた時点においては、原告はこれにより尾崎商会の債権者を害すべき事実を知らなかつたものと認めることができ、結局、破産法七二条一号又は四号の否認の要件を欠くものといわざるを得ない。

三もつとも、原告が尾崎商会の被告長崎屋及び訴外西友ストアー長野に対する本件売掛債権を代物弁済として譲り受けたのは、昭和五五年四月二五日尾崎商会の支払停止(すなわち債務不履行)を停止条件としたものであり、その旨の債権譲渡通知が送達されたのはいずれも同月二六日であることは、当事者間に争いがない。

そこで、前記停止条件付代物弁済契約をした時点では、破産法七二条の否認の要件を具備しなかつたとしても、原告が尾崎商会の被告長崎屋及び訴外西友ストアー長野に対する債権を譲り受けた段階では、尾崎商会の債務不履行、すなわち、支払停止を知つたうえで行われたことが明らかであるから、あるいは同法条二号の否認の要件を充すのではないかとの疑問も生じないではないが、例えば、債務の弁済期が未到来のため債権者が代物弁済一方の予約に基づく予約完結権を行使できないでいる間に、債権者と債務者が支払停止又は破産申立のなされたことを知りながら両者相通じ、債務者は期限の利益を放棄して予約完結権の行使を誘致し、債権者は債務者に対し一方的に予約完結の意思表示をすることにより代物弁済の効力を生ぜしめた場合に、右予約完結権の行使が破産法七二条二号の否認の対象とされうることのある(最高裁昭和四三年一一月一五日第二小法廷判決・民集二二巻一二号二六二九頁参照)のは格別、本件のごとく、債務者の債務不履行を停止条件とし、その代物弁済として債務者の第三債務者に対する債権につき債権譲渡が行われた場合には、同条二号にいう「破産者が支払の停止又は破産の申立ありたる後になしたる担保の供与、債務の消滅に関する行為その他破産債権者を害する行為」のいずれにも該当するものとはいい難く、否認の要件を欠くものと断ぜざるを得ない。

四次に、原告の被告スズヤに対する請求について検討する。

1  弁論の全趣旨によれば、尾崎商会が昭和五五年四月二五日支払停止をした時点で被告スズヤに対し売掛債権五八万七一七一円を有していたことが認められるところ、原告が尾崎商会との間に同年五月九日付で作成された原告主張の公正証書を債務名義として右債権につき債権差押及び転付命令(ただし、被転付債権額六一万一五一五円と表示)を得、その命令正本が同年六月二四日第三債務者たる被告スズヤに対して送達されたことは当事者間に争いがない。

2  ところで、破産法七二条二号の債務消滅に関する行為とは、破産者の意思に基づく行為のみに限らず、債権者が同法七五条の強制執行としてした行為であつて破産者の財産をもつて債務を消滅させる効果を生ぜしめる場合を含むものと解すべきであり、この場合には、破産者が強制執行を受けるについて害意ある加功をしたことを必要としないものと解するのが相当である(最高裁昭和四八年一二月二一日第二小法廷判決・判例時報七三三号五二頁参照)。

3  尾崎商会が昭和五五年四月二五日支払停止、同年六月一六日破産申立、ついで、同年八月七日破産宣告となつたことは、当事者間に争いのない事実であつて、原告が同年四月二五日の時点で尾崎商会の支払停止を知つたものと認められることは上記のとおりであるから、原告が尾崎商会の被告スズヤに対する前記債権に関し債権差押及び転付命令を得たのが同年六月二四日である以上、右は当然尾崎商会の支払停止を知つて行われたものというべきである。

4  そうすると、前記債権差押及び転付行為は、破産法七二条二号により否認の対象となることが明らかであるから、原告に対する前記債権転付の効力は否定され、消滅したものと解される。

五結論

1  昭和五五年(ワ)第七七〇六号事件につき、被告長崎屋は原告に対し四八万七九一六円とこれにつき訴状送達の翌日である昭和五五年八月一日以降完済に至るまで商事法定の年六分の割合による遅延損害金支払の義務があるので、原告の請求をこの限度で認容し、原告の被告スズヤに対する請求は理由がないので失当として棄却する。

2  昭和五五年(ワ)第九六一二号事件につき、尾崎商会の被告スズヤに対する前記売掛債権五八万七一七一円が破産者株式会社尾崎商会の破産財団に属することは明らかであるから、その旨の確認と被告スズヤに対し右金額の支払を求める部分は、理由があるので認容し、その余の請求は失当として棄却する。

3  昭和五五年(ワ)第一三四四二号事件につき、別紙供託目録記載の供託金は、訴外西友ストアー長野が本件債権弁済のため供託したものであることは、当事者間に争いがなく、右供託金還付請求権が原告に帰属すべきこと前記のとおりであるから、参加人の請求を失当として棄却する。

4  訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九四条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用。

5  よつて、主文のとおり判決する。

(牧山市治)

供託目録

供託所   東京法務局

供託年月日 昭和五五年八月二六日

供託番号 昭和五五年度金第五九二三八号

供託金額  金一、四九八、三九五円

供託者 株式会社西友ストアー長野

被供託者  光洋産業株式会社

又は今村貴美子、松田かほる、二木由美子、吉野瞳、太田一美又は株式会社尾崎商会

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